「海はいいな」と少年はいった、
「そうかしら、わたしはこわいわ」と少女が答えた、
少年はほんとうに海が好きだったが、
少女のこわかったのはなにか別のものだった。
それからふたりの足はとげのうえを歩いてきた、
ふたりの心もとげのうえを歩いてきた、
やがて足も心も厚くなって、
とげもどんな鋭い針も通らないようになった。
さらさら砂をかけられて、
こそばゆかったやわらかな足裏は、
なぜいま軽石でこすられているのだろう。
とがった鉛筆のしんでつかれても、うすく血がにじんだやさしい心、
ああ、あの幼い心はどこでまよっているのだろう。
「足と心」